知っておこう!遺留分減殺請求と遺留分侵害額請求の違いとは?

(画像=Pakhnyushchyy/stock.adobe.com)

2019年7月1日、民法の改正によって従来の「遺留分減殺請求」の名称が「遺留分侵害額請求」と改称されました。改正においては、名称のみならず、制度内容についても若干の改正点が見られます。ここでは、遺留分侵害額請求の内容と、従来の制度との違いを見ていきましょう。

遺留分とは

自己の財産の処分の自由は、生前の財産、死後の財産を問わず保障されています。一方、その自由を貫こうとすると、被相続人の財産を頼りに生活する相続人が犠牲になることにつながります。そこで、財産処分の自由は保障しつつ、一定の相続人に一定の金額を確保させる制度として遺留分が存在します。

遺留分権利者と遺留分率

まず、遺留分権利者とは兄弟姉妹を除く法定相続人となります。そしてそれぞれの遺留分率については、以下のとおりです。

総体的遺留分率

遺留分権利者全体が相続財産全体に対して持つ遺留分の割合を総体的遺留分率といい、その割合は相続人の構成によって異なります。具体的には以下の表のとおりとなります。

遺留分権利者 相対的遺留分率
直系尊属のみ 3分の1
上記以外 2分の1

例えば、法定相続人が被相続人の父母だけで構成されていれば、3分の1となりますが、法定相続人が配偶者と父母の場合は、2分の1となります。

個別的遺留分率

相対的遺留分率に対し、各遺留分権利者がもつ遺留分の割合を個別的遺留分率といいます。したがって、総体的遺留分率に法定相続分割合を掛けたのが個別的遺留分率となります。

例えば、相続人が配偶者および子ども2名の場合であれば、配偶者の法定相続分は2分の1となり、配偶者の個別的遺留分率は、「2分の1×2分の1」つまり4分の1となります。また、2人の子どもたちはそれぞれ「2分の1×4分の1」で算出された8分の1となります。

もしも、相続人の構成が配偶者および兄弟姉妹の場合であれば、配偶者の法定相続分は4分の3となりますが、個別的遺留分率が8分の3とはならない点に注意が必要です。なぜなら、兄弟姉妹は遺留分を有しないことから総体的遺留分率がそのまま配偶者の個別的遺留分率になり、結果として配偶者の個別的遺留分率は2分の1となります。

遺留分侵害額算定方法

では、実際の遺留分侵害額について、どのように計算していくのか。以下のケースを想定して計算してみましょう。

(ケース)
被相続人の死亡日:2019年7月1日
相続人:被相続人の配偶者および子ども(1人)
・被相続人は生前、子どもの住宅購入資金として800万円を贈与している
・被相続人は、生前に土地(2,000万円)を第三者に対して寄贈している
・被相続人は遺言を残しており、その内容は「預金については全て配偶者に相続させる」というものである
・被相続人の死亡時の財産については、預金(1,000万円)だけとなっている
・被相続人には死亡時に200万円の借金が残されていた

遺留分を算定するための財産の価額

ここではまず、遺留分算定の元になる「遺留分を算定するための財産の価額」を算定する必要があります。計算の流れは以下のとおりです。

(計算式)
「基礎の遺留分算定のための財産額」=「相続開始時、被相続人が有した財産の額」+「贈与時の財産額」-「被相続人が負う相続債務」

・被相続人が相続開始の時において有した財産の額:1,000万円+2,000万円=3,000万円
・贈与した財産の額:800万円
ここで気をつけていただきたいのが、贈与した財産の額とは、「原則として相続開始前の1年間になされたものの額とするが、例外として、当事者同士が遺留分の権利者に対して損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年間より前のものも含まれる」となっていることです。そして、このケースでは相続人に贈与した場合は、それが特別受益に該当するものであれば、遺留分の権利者に損害を加えることを知らなかったことを要件に、相続開始前の10年間になされたものである限り含まれるケースに該当することから、800万円が贈与した財産の額となる点です。
・相続債務の額:死亡時の借金額の200万円

したがって、遺留分を算定するための財産の価額は「3,000万円+800万円-200万円」の3,600万円となります。

各遺留分権利者の遺留分侵害額

では次に各遺留分権利者が持つ遺留分侵害額について計算してみましょう。

(計算式)
「遺留分侵害額」=「遺留分を算定するための財産の価額」×「個別的遺留分率」-「受遺額および受贈額」-「相続により取得した額」+「承継した相続債務の額」

1.配偶者の遺留分侵害額
・遺留分を算定するための財産の価額×個別的遺留分率: 3,600万円×4分の1で計算された額、つまり900万円
・受遺額および受贈額:遺贈や贈与を受けていないため0円
・相続により取得した額:預金の1,000万円
・承継した相続債務の額:200万円×2分の1の100万円

配偶者の遺留分侵害額:900万円-0円-1,000万円+100万円=0円

2.子どもの遺留分侵害額
・遺留分を算定するための財産の価額×個別的遺留分率: 3,600万円×4分の1で計算された額、つまり900万円
・受遺額および受贈額:800万円
・相続により取得した額:0円
・承継した相続債務の額:200万円×2分の1の100万円

子どもの遺留分侵害額:900万円-800万円-0円+100万円=200万円

遺留分侵害額請求の方法

ここでは遺留分侵害額請求方法の概要について説明します。

請求の相手方

遺留分侵害額請求は、遺留分を侵害する受遺者または受贈者を相手に行います。上のケースでは土地の寄贈を受けた第三者が該当します。本来、受遺者とは遺贈を受けた者を指しますが、遺留分侵害額請求の場合、特定財産承継遺言(例えば、この不動産は妻に「相続させる」といった内容の遺言)により財産を承継した相続人や相続分の指定を受けた相続人も含まれます。

請求の行使方法

遺留分を侵害する受遺者(このケースでは土地の寄贈を受けた第三者)に対して、遺留分侵害額請求の意思表示を行います。この意思表示は口頭でも効力は生じますが、トラブルになった際に意思表示をした時期を証明できるように、配達証明付きの内容証明郵便で行うようにしてください。

請求の期間制限

遺留分侵害額請求は、遺留分権利者(ここでは妻と子ども)が、相続の開始または遺留分を侵害する贈与もしくは遺贈の事実があったことを知ったときから1年以内に請求する必要があり、請求しなかった場合、請求権は消滅することになります。また、知らなかったとしても、相続開始から10年以内に請求しない場合、請求権は消滅することも覚えておきましょう。

受遺者等の負担額の上限

受遺者(このケースでは土地の寄贈を受けた第三者)は、遺贈の価額である2,000万円を上限として、遺留分侵害額を負担することになります。もし、この第三者が遺留分を有する相続人である場合は、本来の目的の価額から遺留分として取得できる額を控除した額が上限となります。さらに、受遺者が複数人存在する場合、その負担の順序や割合に関する規定に従って負担額が決定されることになります。

期限の許与

受遺者(このケースでは土地の寄贈を受けた第三者)が遺留分侵害額に相当する具体的な金額の支払いを求められた場合、直ちに支払わないと遅延損害金が発生してしまいます。そこで、資金調達の期間確保のため、裁判所は受遺者の請求によって相当の期限を許与することができるとしています。

遺留分減殺請求と遺留分侵害額請求の違い

では、最後に遺留分減殺請求と遺留分侵害額請求の違いについて解説します。

まず適用時期ですが、遺留分侵害額請求は2019年7月1日以降に開始した相続に関して適用されます。したがって、2019年6月30日までに開始した相続に関しては従前の遺留分減殺請求が適用される点に注意が必要です。

さらに、遺留分減殺請求と遺留分侵害額請求の違いについては大きく2つに分けることができます。

法的性質

遺留分減殺請求の性質は、目的物の所有権または共有持分権の取得による物件の返還請求権となっています。例えば上のケースで被相続人の死亡日が2019年6月30日であった場合、その翌日に被相続人の子どもが土地の寄贈を受けた第三者に対して遺留分減殺請求をした場合、その土地について子どもは2,000分の200、つまり10分の1の共有持分を取得することになります。ただし、この第三者が被相続人の子ども対して遺留分に相当する価額を弁償すれば、返還義務を免れることができ、引き続き寄贈された土地は第三者の単独所有となります。

一方、遺留分侵害額請求の法的性質は、金銭の支払い請求権です。したがって被相続人が2019年7月1日以降に死亡した場合は、被相続人の子どもが土地の寄贈を受けた第三者に対して持分10分の1を要求することはできません。もっとも第三者と子どもとの間で代物弁済契約を締結すれば、被相続人の子どもに持分10分の1を移転することはできますが、その際には寄贈を受けた第三者側に譲渡所得税の課税が生じる可能性があります。

注意しておきたいもう一つの違いとは

遺留分減殺請求と遺留分侵害額請求におけるもう一つの違いとは、遺留分を算定するための財産の価額に算入すべき特別受益に該当する贈与の時期です。遺留分減殺請求の場合、判例に照らし、特段の事情がない限り、例えば20年前の特別受益に該当する贈与も含まれるとされていますが、遺留分侵害額請求の場合、新たに条文が設けられたことから、10年以内になされた特別受益に該当する贈与に限定されることになった点に注意が必要です。

民法および相続税法の改正により相続の際のトラブルは身近なものになりつつあります。特に法定相続人以外に寄贈や贈与などがあり、遺言によって自身の相続の権利を侵害される出来事に遭遇した場合は、遺留分侵害額請求の知識は必須となります。実際に相続が発生した時点で慌てることのないように、日頃から相続に関する情報を取り入れる姿勢を忘れないようにしましょう。

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