不動産投資におけるオーナーの認知症対策「家族信託」の基礎知識

(画像=Chinnapong/stock.adobe.com)

不動産オーナーの認知症対策として「家族信託」が注目されています。高齢のオーナーは自分が亡くなった後の相続対策だけでなく、認知症への備えも必要です。オーナーが認知症になると、不動産投資を続けられなくなる恐れがあります。

今回は、不動産オーナーに認知症対策が必要な理由や家族信託の概要についてお伝えします。

不動産オーナーに認知症対策が必要な理由

高齢のオーナーが今後も不動産投資を続け、家族に収益不動産を相続させる予定の場合、認知症対策は必須といえます。不動産オーナーに認知症対策が必要な理由は以下の通りです。

口座凍結によりお金が引き出せない

認知症になると銀行口座が凍結され、お金を引き出せなくなります。本人の意思を確認できないため、財産を保護する必要があるからです。たとえオーナーの家族でも、基本的に預金の引き出しは認められません。生活費や介護費用を引き出せなくなると、家族に大きな負担をかけることになります。

不動産の売買や修繕が自由にできない

認知症になって判断能力が低下すると、不動産の売買や修繕を自分で行うことが難しくなります。家族のサポートを受けたいところですが、家族でもオーナー名義の不動産は勝手に売買できません。また、修繕が必要になっても契約を締結できないため、不動産投資の継続が困難となります。

入居者の退去やクレームに対応できない

不動産投資では、入居者がいないと安定して家賃収入を得られません。空室の発生は避けられないため、早期に次の入居者を見つけたり、退去を少なくしたりすることが重要です。

しかし、オーナーが認知症になって契約を締結できなくなると、退去の手続きや次の入居者募集に支障が出ます。入居者から設備の故障などのクレームがあってもスムーズに対応できなくなり、退去につながる恐れがあります。

相続対策ができない

まとまった預貯金や不動産を所有し、相続人が複数いる場合は相続対策が必要です。特に不動産は簡単に分割できないため、誰が相続するかでトラブルになる可能性があります。また、相続財産の評価額によっては相続税がかかります。

しかし、オーナーが認知症になって意思確認ができない状態になると、相続対策ができなくなります。

認知症患者数は増加傾向にある

ここでは、認知症患者数の現状について確認しておきましょう。

厚生労働省の資料によると、2012年の認知症患者数は462万人で、認知症有病率は15.0%です。2025年には約700万人(約20%)に増加し、高齢者の5人に1人は認知症になると予測されています。2030年以降、認知症患者数はさらに増加する見込みです。

また、平均寿命と健康寿命の差も注目しておきたいポイントです。厚生労働省の資料によれば、平均寿命は男性が約81年、女性が約87年となっています。しかし、健康寿命(自立して過ごせる期間)は男性が約72年、女性が約75年です。平均寿命に比べて、健康寿命は10年程度短いのが現状です。

認知症は他人事ではなく、高齢者なら誰でもかかる可能性がある病気です。また、平均寿命と健康寿命には大きな差があるため、健康で元気なうちに認知症対策に取り組む必要があります。

不動産オーナーの認知症対策には家族信託がおすすめ

不動産オーナーの認知症対策として、最近注目されているのが「家族信託」です。ここでは、家族信託の概要やメリット・デメリットについて確認していきましょう。

家族信託とは

家族信託とは、信頼できる家族に財産の管理や運用、処分などを任せる仕組みのことです。家族信託を利用すれば、不動産オーナーが認知症になっても、家族が不動産の売買や賃貸管理を行えます。

家族信託は、「委託者」「受託者」「受益者」の3者で構成されます。それぞれの役割は以下の通りです。

  • 委託者:財産の管理を託す人
  • 受託者:託された財産の管理を行う人
  • 受益者:信託財産から生じる利益を受ける人

委託者と受益者を不動産オーナー(親)、受託者を子とするのが一般的です。信託契約書で管理を託す財産の範囲や管理方法を定めた上で、信託契約を締結します。

受託者は、信託契約書で定めた内容の範囲で財産の管理、運用、処分などを行います。そのため、信託契約を締結する前に、託す財産の内容や管理方法について十分に話し合う必要があります。

不動産投資の場合、収益不動産の所有権を子、不動産から生じる利益を受ける受益者を親とすることで、親が認知症になったとしても子が不動産投資を継続できます。

家族信託のメリット

不動産オーナーが家族信託を利用する主なメリットをまとめました。

  • 認知症になった後も不動産投資を続けられる
  • 財産を管理する人と管理方法を本人が信託契約で決められる
  • 本人の財産から介護費用を準備できる

オーナーが元気なうちに家族信託を設定しておけば、信託契約の範囲内で家族が不動産の売買や賃貸管理ができます。もし認知症になったとしても、引き続き収益物件から家賃収入を得られます。

家族信託では、信託契約で受託者と管理する財産の範囲、管理方法を定めます。信頼できる家族を受託者に指定でき、受託者は信託契約で定められた範囲で財産管理・運用を行うため、安心して財産の管理を任せられます。

また、介護でまとまった費用が必要になったときは不動産を売却して介護費用を捻出できるので、家族に金銭的な負担をかけずに済みます。

家族信託のデメリット

家族信託のデメリットは、不動産オーナーが認知症になってからでは利用できないことです。信託財産の範囲や管理方法などを話し合った上で信託契約を締結するため、本人が元気なうちに家族信託を設定する必要があります。

受託者や管理・運用する財産の範囲、管理方法を決める話し合いがうまくいかないと、トラブルになる恐れがあります。

不動産所得で赤字が出た場合、通常は他の所得と損益通算できるため、所得税・住民税が節税できます。しかし、家族信託を利用すると信託財産(収益不動産)で赤字が出ても損益通算はできません。

成年後見制度との違い

成年後見制度とは、認知症などで判断能力が低下した人をサポートする制度です。大きく「任意後見制度」と「法定後見制度」の2つがあります。

任意後見制度は、本人が認知症になる前に利用できる制度です。財産管理を任せる任意後見人を本人が決められます。そして、本人が認知症になった後、家庭裁判所に任意後見監督人の選任申立てを行います。

法定後見制度は、本人が認知症になった後に家庭裁判所が選任した成年後見人が本人をサポートする制度です。

成年後見制度では、不動産の売買は基本的に裁判所の許可が必要になります。また、法定後見人は家族以外の人(弁護士、司法書士など)が選ばれる可能性があり、その場合は費用が発生します。家族信託に比べると自由度が低く、使い勝手がよいとはいえません。

家族信託を利用する場合はどうすればいい?

家族信託を利用するときは、弁護士や司法書士などの専門家に相談しましょう。不動産オーナーの場合は、家族信託の相談を受け付けている不動産会社に相談する方法もあります。自分で手続きすることも可能ですが、専門知識がないと難しいでしょう。

家族信託を専門家に依頼する場合は費用がかかり、相場は50~100万円程度です。

まとめ

不動産オーナーが認知症になり、不動産の売買や賃貸管理ができなくなれば、家族に大きな負担をかけることになります。万一に備えて、家族信託で認知症対策をしておくことが大切です。

認知症になってしまうと家族信託は利用できなくなってしまうので、早めに弁護士や司法書士などの専門家に相談しましょう。

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