
ロンドン大学リンダ・グラットン教授による「人生100年時代をいかに生きるか」がテーマの『LIFE SHIFT(ライフシフト)100年時代の人生戦略』という書籍がベストセラーになっています。その内容は今までの「教育」「就職」「老後」というパターン化された人生ではなく、「マルチステージ」という表現で今後の人生を考える必要があると述べています。
その流れの中で近年、「サラリーマンが定年退職後、会社を買い、一国一城の主になる生き方もあるのではないか」と提案されています。また、中小企業の事業承継が社会的な問題となり、後継者不足により日本にも大廃業時代が到来していると示唆しています。このことは裏をかえせば、M&Aにより会社を買収することで規模の拡大を目指すチャンスが到来しているといえるでしょう。
スモールM&Aとは
「スモールM&A」とは、取引金額が数百万円から数千万円程度、従業員規模が数名から30名以下という事業規模の比較的小さいM&Aを指します。規模が小さいと、人手の割に仲介手数料が小さいという理由で、今まで注目されることはあまりありませんでした。しかし、インターネットの活用でなるべく人手をかけないマッチングサイトが徐々にできつつあり、今後市場規模の拡大が予想されます。
事業拡大の種類
M&Aと一言でいっても実はいろいろな種類の手法が存在します。以下に代表的なM&Aの種類を4つ挙げてみましょう。
1.株式譲渡
経営者が所有する株式を、事業を譲り受ける会社に売却し、経営権を移転させるやり方を株式譲渡といいます。株主が変わるだけで、譲渡された会社は今まで通りの形態で運営し、売買の対象となった会社が持つ特許や公的機関から発行された許認可なども原則として存続します。
株式譲渡の最大のメリットは、売却側の経営者が持つ株式を素早く現金化できるうえ、手続きが他のM&Aの手法と比較すると簡単に済ますことができます。小規模企業のM&Aでは、この形式が用いられることが多いのが現状です。
2.事業譲渡
例えば、譲渡する会社が事業を譲り受けるA社に対し、ある一部の事業だけを売却する手法を事業譲渡と呼びます。複数の事業を展開する会社が、ある事業に集中することを決めた場合、一部事業を他社に売却し、バランスシートを身軽にする場合に最適です。
売却側の会社には不要とされた事業であっても、買い手のA社にはシナジーがある事業のケースもあり、その場合の譲渡には最適な方法です。一方、債権や債務、従業員との雇用関係、他社との契約など、権利義務関係を事業ごとに個別に引き継ぐ必要があり、株式譲渡などと比較すると手続きが煩雑なのがデメリットとして挙げられます。
3.吸収合併
吸収合併は、例えば事業を譲り受ける側のA社の法人格のみを残し、譲渡するB社の法人格は消滅するという手法です。バランスシートに計上されている資産や負債、オフバランスシートの営業の許認可や特許、従業員などをA社がすべて承継します。
移籍する従業員からすると、まったく別の会社に転職するのと同じ形になるので、雇用形態や勤務条件などの調整が必要になります。また、バランスシート上の資産や負債の精査(これを一般的にデューデリジェンスと呼びます)を行い、最終的には2社の間で合意することが必要です。そのため、一般的には精査に時間を要することもあります。
4.株式交換
株式交換は、会社法に基づく組織再編手法の一つで、最大のメリットは手元資金や借入金を使う必要がありません。具体的には、買収する側の会社の株式と買収される側の会社の株式を交換することにより、完全な親子会社関係(100%子会社化)を形成する企業買収手法です。
買収される側の会社の株式を保有する株主に、買収する側の会社の株式もしくは新株を割り当て、買収される側の会社の株式を買収側が受け取ることで株式交換が成立します。こうして買収する側の会社が親会社となり、買収される側の会社が子会社となるのです。
M&Aにはこのように複数の手法があります。「事業モデルや形態によって、どのM&Aの手法を選択するか」は変わってくるでしょう。M&Aを事業承継の一つの選択肢として、一度検討してみてはいかがでしょうか。
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