
M&Aの方法としては、株式を売買することで経営権を譲渡する株式譲渡と会社の事業や資産の一部、またはすべてを売買する事業譲渡があります。株式譲渡は、株式を通じて一度にすべてのやり取りで会社の譲渡ができ、複雑な手続きも必要ないので、中小企業のM&Aでは最も活用されています。
事業譲渡は工場や店舗ごとに切り分け、分割して個別に売買が可能ですので、買収する会社に必要な部門のみ、手に入れられる旨味があり、株式譲渡に次いで多く活用されます。
そこで、問題となるのが、株式譲渡における簿外資産の問題です。簿外というのは、通常決算期末日に作成する貸借対照表上に現れない債務のことで、株式譲渡の場合、もし簿外資産がある場合、原則的にはこれも引き継ぐこととなってしまいます。もし買い手側がこの簿外負債に気づかず、後々これが経営に大きなネガティブインパクトを与えるようなことになると、実行したM&A自体が効果の薄いものになる可能性も出てきます。
なぜ簿外資産が発生するのか
中小企業では、簿外資産として頻繁に出てくるものとして、下記のような項目があります。
・役員に対する退職慰労金
・従業員への退職給与引当金
・賞与引当金
・未払い費用
・売掛金に対する引当金など
それでは、なぜ簿外資産が発生するのでしょうか。その理由を一言でいうと、「財務会計と税務会計の違いから生じる」ということになります。財務会計とは、主に大会社が採用する会計基準で、株主や銀行などに会社の経営状態を開示するものです。開示の対象が株主や銀行ですので、きちんと利益が出て、企業が成長過程にあることを示すことが第一の目的となります。
一方、税務会計は、中小企業が採用する会計基準で法人税を計算するために作成する財務諸表です。したがって、経営者としては利益を少しでも圧縮し、法人税を節税しようとするインセンティブが働きます。一方、徴税側(税務署)としては、なるべく多く税金を取りたいというインセンティブが働くでしょう。
そのため、支払いが先である賞与引当金や退職給与引当金などを帳簿に記載する場合、かなり厳密な条件をクリアしないと貸借対照表に計上できないことが頻繁に発生するのです。本来、就業規則や退職金規定などが制定されているにも関わらず、税務会計上はなにも引当金が準備されていないケースが散見されます。
未払費用は、まだ実際にキャッシュアウトされていない費用を、未払費用という負債科目で貸借対照表に計上するのが財務会計上の基本的な仕訳となります。これを「発生主義」といい、今月分の費用として計上しなければならないものは、現金が支払われなくても借方に費用計上し、貸方に未払費用とします。
しかし、中小企業は、この期ずれをあまり気にすることなく、実際にキャッシュアウトした月に費用計上をするケースが大部分です。そうすると、決算期末の損益計算書に記帳されるべき経費計上がされていないことが出てきます。
売掛金に対する貸倒引当金が計上されていない場合も、簿外負債となります。本来は売掛金と計上していても回収に疑義のある場合は、貸倒引当金を計上することが財務会計の基本です。しかし、税務上は貸倒引当金の計上基準が厳しいので、費用計上されずに簿外負債となる場合があります。
海外と貿易を行う企業は、銀行と為替予約をするケースがよくあります。為替予約とは、金融商品のデリバティブ(派生商品)の一種です。将来の外国為替のレートが予想通りに動けば問題ありません。しかし、予想と反した方向に動きますと実際に外国為替の決済を行っていなくとも、決算期には為替差損を計上する必要があります。しかし、中小企業では適切に処理が行われず、簿外負債となる可能性もあるため注意が必要です。
上に述べた簿外資産は、M&Aを行う際には弁護士によるデューデリジェンスで発見されることが多々あります。しかし、弁護士やM&Aの専門家に財務諸表の精査を依頼すると、かなりの費用が発生することは否めません。このあたりは、買収する側の企業がとこまでリスクを取るかにかかわってきます。
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