
2019年10月の消費税増税が近づいていますが、最近自民党の羽生田幹事長代行が、消費税率アップの延期を匂わしたことがニュースになっています。
財務省は、安定財源確保のため、消費税アップを死守したいところですが、日本の経済の実態は、本当のところどうなのでしょうか。また他の国と比較した場合、日本は経済成長の度合いはどの程度なのか、特に家計の金融資産残高の比較にフォーカスして見ていきます。
家計金融資産の国際比較
下記の表は、金融庁が2017年2月に発表した、日本と米国、英国との家計金融資産の伸び率を比較したものです。

このグラフは、今から23年前の1995年(英国のみ1997年)を1として、2016年末までの21年間に家計金融資産がどの程度増加しているかを表したものです。
家計金融資産の伸びは、日本1.54倍、米国3.32倍、英国2.46倍となっています(折れ線グラフ)。
さらに、その中で金融資産の運用リターンでどれだけ家計金融資産が増加したのかを表したのが、塗りつぶしたグラフです。
日本は1.2倍、米国2.45倍、英国1.77倍となっています。
これから読み取れることは、米国、英国と比較して、日本の家計における金融資産の増加率が低い現実がわかります。これがバブル経済崩壊後の「失われた20年」と言われている状況を表しているのではないでしょうか。
2018年12月に開催された内閣府の経済動向指数研究会は、2012年12月から続いている景気上昇が、いざなぎ景気(1965年11月~1970年7月)を超えて戦後2番目の長さになったと認定しました。しかし、我々生活者の肌感覚では、経済的に豊かになったという実感が乏しいのは、このグラフからも明らかです。
さらに、運用リターンにおける金融資産の増加率も同様です。では、その原因はどこから来ているのでしょうか。

この比較からわかることは、日本の現預金の割合が約52%と半分以上を占めていることです。間接保有を含めた株式・投資信託の割合は、日本は18.8%と保険・年金と比べても低い割合となっています。大雑把に言えば、日本人がお金を預ける先は、①銀行 ②生命保険 ③証券会社 の順になっているということです。
次に1995年と2016年の家計金融資産の増加の比較を日米で表した円グラフです。

この円自体の大きさの差に驚かれる方も多いと思いますが、その理由は、明らかにどこにお金を預けているかの違いにほかなりません。
実際、大手メガバンクの普通預金の金利が0.001%、定期預金が0.01%です(2019年4月15日現在)。銀行に半分以上お金を預け、その金利がこの通りですから、家計金融資産が増えないのは当然なのです。
この現実は、金融庁の家庭金融資産の現状レポート(2017年2月)でも指摘しています。
「貯蓄から投資へ」は根付いていない
ここまでのグラフからわかることは、政府が常日頃提唱している「貯蓄から投資へ」というスローガンが全く効いていないことがわかります。
その理由は、家計における預貯金は、所得から支出を引いたものが家計資産に回ります。普通、所得が下がっても支出はすぐに調整できないので、その分、家計資産へ回す分が減少します。すなわち預貯金が所得と支出のバッファーになります。人間の心理として、お金を取り崩すポジションにいる場合、その金融資産を長期の金融資産、すなわち株式や投資信託などに預けかえる、という行動は取らないものです。
いずれ取り崩して生活費の足しにしなければならないのは、すぐに手元に戻せる預貯金においておく心理が働きます。これが、日本人がお金を預貯金に寝かさざるを得ない理由の一つなのかもしれません。
さらに少子高齢化時代を迎え、労働人口も減少しています。それに比例して日本の長期的な貯蓄率も減少し始めたといえます。
さらに経済の3つのセクターである、家計部門、企業部門、政府部門の動きを見ていきましょう。2000年以降は、家計部門、企業部門も低成長ながらお金を溜めて来ました。その2部門のお金が、少子高齢化や財政肥大化している政府部門の資金調達を支えてきました。この背景には、少子高齢化により、医療費や年金の税金からの補填といったことが必要になった点が挙げられます。
次に、家計部門と企業部門の関係です。こちらは、企業の収益は上がっているにもかかわらず、今後の予測不能なネガティブ・インパクトに備えて企業はお金を溜め込んでいます。そして過去は、新入社員の数の抑制などで人件費を抑えていましたが、最近では管理職の層にも雇用調整が行われています。経団連の中西会長は、2019年4月19日の記者会見で、「今後、日本は終身雇用のシステムを維持するのは難しい」と明言しました。
日本の終身雇用制度は、実態としてはるか以前に終焉を迎えていましたが、改めて財界トップがそのことを明らかにしました。このことは、とても重みのある発言で、今までは日本における解雇要件はとてもハードルの高いものでしたが、その制度を解雇しやすいように改める、という意味にも受け取れます。
このことから、今後は、企業部門の一人勝ちとなり、個人部門は、もしかしたら金融資産が減少しはじめ、政府部門は常時赤字となっていくかもしれません。
日本のマクロ経済の状況は、大きく変化していくことは間違いありません。その中で少しでも個人の金融資産を増やすためには、金融リテラシーを上げていくことがより大切になっていきます。ネット社会においては、容易に情報を入手することができますが、その内容は玉石混交です。真に正しい情報を手に入れて、しっかり金融リテラシーを上げていきたいものです。
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